自然言語処理のゲームへの応用サーベイ

創作+機械学習 Advent Calendar 2022 6日目の記事です。

ゲームへの自然言語処理応用は、大別して、
1.ゲーム製作時の支援を行う用法と、
2.ゲーム自体に自然言語処理モデルを組み込む用法があるように思います。

この2つの観点別に、主に国内で自然言語処理をゲームに応用している事例を紹介していきます。

自然言語処理によるゲーム製作支援

自然言語処理をゲーム制作支援に応用する事例としては、校正やシナリオライター感のキャラ振れ防止、キャラクターの感情を自動推定することによる演出作業設定の効率化などが行われています。

ゲームシナリオの自動校正(Cygames)

AIによる自然言語処理を活用したゲームシナリオ制作術――誤字検出だけでなく訂正候補の提示まで行うCygamesのシナリオ執筆ツールの内側を解説【CEDEC2022】 | ゲームメーカーズ

Cygamesさんは自然言語処理を用いたシナリオ執筆の補助ツールを制作しています。誤字検出した際に、単に箇所を指定するのみでなく、訂正候補を提示することによって、AIが間違った判定を行っていないかを人がチェックしやすい機構を作っています。間違ったテキストを入力した時に、正しいテキストを出力するようにしてモデルを学習させます。モデルはBERTを使用しているようです。

キャラらしさの判定によるキャラ振れ防止(バンダイナムコ研究所)

冴えるヒロインの作りかた ~自然言語処理AIによるキャラクター性の抽出と反映への事例紹介~
バンナムさんは台詞制作におけるキャラクターらしさをAIに判定させるという技術を開発しておられます。(上記リンクはCEDECという学会のものですが、会員登録を無料でしてログインすれば資料をダウンロードできます)
キャラブレさせないために、過去の類似台詞を検索可能にしたり、深層学習モデルをキャラクターの対話データでFinetuneしたり、役割語をルールベースで置き換える試みなどを行っています。 

セリフの感情推定による演出付与作業効率化(バンダイナムコ研究所)

RINA:マルチモーダル情報を利用したキャラクターの感情推定
ゲームでは台詞の感情に合わせた表情や演出などが行われます。そのためのコーディング作業はかなり時間のかかるものだということはゲーム開発者なら誰しも体験したことだと思います。上記の研究は感情推定を自動化することによって、そうした作業を効率化可能にするものです。

ゲーム内での自然言語処理モデルの使用

チャットボット

チャットを組み込んだゲームを振り返ると20年前にシーマンが流行しました。シリーズ合計200万本以上の売上があったそうですが、それ以降チャットゲームはあまり作られなかった印象があります。

以下は人工知能学会の学会誌のインタビュー記事「シーマンは来たるべき会話型エージェントの福音となるか?:斎藤由多加インタビュー」からの引用です。

そしてユーザの胸に響くような名セリフを言わせたいときは,あらかじめつくっておいた人間が感動しそうな語録100パターンぐらいのライブラリーの中から,そのときそのときに当てはまりそうなものを検索してきて発話させるのです.そうすることで,引数と名言が組み合わさって,あたかもユーザのことを理解しているようなセリフにするわけです. 例えば職業が弁護士だというユーザに対して「×××(職業)のように人の上に立って先生と呼ばれる職業は,人に教わる立場でもあるんだゾ」 という言葉を引っ張ってくると,ぴったりとはまってくるわけです. いちいち「あなたは弁護士ですか ら……」と職業名を復唱することなく,しかしユーザに理解していることを匂わす言い回しとして言葉の端々に宿らせることができるわけです.

この時代には、音声認識→ルールベースで予め録音された台詞を割り当てるという方法でチャットゲームが実現されていたようです(ただし、単語としての音声認識ではなく、声色などの要素も使用していたようです)。これ以降に、チャットゲームがあまり出現しなかった理由はこうしたルールの割当に一種職人芸的なセンスが必要であり、他が真似をするのが難しかったのではないかと推察されます。しかし、現代では自然言語処理モデルの性能向上により、機械学習モデルを使ったチャットゲームが実現可能になった素地が整ったように思えます。

プラスリンクス

rinna 開発の対話エンジンを搭載したAIキャラクターリアルチャット恋愛ゲーム『プラスリンクス ~キミと繋がる想い~』に登場

プラスリンクスというチャット式恋愛ゲームとりんながコラボした事例があります。プラスリンクスはもともとは中に人がいて、手動でチャットを行う形式のゲームですが、AIがそれを担当したキャラクターがりんなとコラボによって実現したようです。
※:プラスリンクス自体はすでにサービス終了しているようです。

Picka

[TGS2022]チャット型シミュレーションゲーム「Picka」日本版試遊レポート。口説きスキルのレベルが分かって,かわいいノベルティももらえる

 2016年に設立されたプレーンベーグルは、コンテンツ人工知能(AI)スタートアップに最適化されたメディアサービスの提供を目標にしています。 動画ベースのグローバル言語学習自動化ソリューションアプリ「スキッピー」とチャットを通じた仮想体験チャット型シミュレーションゲームアプリ「Picka」を運営しています。

こちらも恐らく恋愛チャットゲームに自然言語処理が導入された事例です。中でどのようなエンジンが使われているかは不明です。

束縛彼氏

Twitter上で提供された『束縛彼氏』が恋愛AIゲームになってApp Store/Google Playに登場「アニメイトガールズフェスティバル2021」 – ロボスタ

ソニー・ミュージックソリューションズが開発した束縛彼氏という恋愛AIゲームにチャットAIが搭載されているようです。

ソニーにおけるキャラクタとの対話システムの取り組み(2019)
ソニーは2019年に人工知能学会に上記の論文を発表しており、ゲームではないですが、めざましマネージャーアスナなどのアプリにチャットAIを導入していたようです。束縛彼氏に搭載されたチャットAIもその研究の延長から発生したとも考えられます。

しかし、上で挙げた3例は総じてチャットゲームは恋愛形式のものです。やはりチャットといえば恋愛相手と行いたいという需要が強いのでしょうか? 機械学習は精度が不完全な面がありますが、恋愛相手に不適切な回答をされるとショックが大きいのではというリスクも考えられます。

ゲーム実況を行うAIYoutuber(バンダイナムコ研究所)

AI技術を活用したライブ配信・実況を行う「配信AIキャラクター」プロジェクトを発足

これは果たしてゲームへの応用と言って良いのか微妙ですが、ゲームをしているAIYoutuberとチャットができるという事例です。基本的にはYoutuberをAI化した事例と言えると思います。ただ、こうした技術を持っている以上、ゲーム自体にもチャットや音声合成を応用する可能性は非常に高いでしょう。

アドベンチャーゲーム

ユーザーが自然言語でインターアクション可能なゲームの歴史は実はかなり古いです。
コロッサル・ケーブ・アドベンチャー – Wikipedia
コロッサルケーブアドベンチャーは完全CUIの1976年発売のゲームです。 
ユーザーが “go east”, “open door” などと入力することで、ゲームを進めていく形式のものでした。この当時は自然言語処理の技術が未熟なこともあって、”use sword”は受け付けても、”swing sword”は受け付けないという理不尽さがありました。

そのため、以後の歴史としては、アドベンチャーゲームは「選択肢の中から選ぶ」と言った形式が主流となりました。90年代から00年代にかけて、日本でアドベンチャーゲームは隆盛を誇りました。

近年では、自然言語処理の発展によって、最初期のテキストゲームが不完全な形でしか実現できなかったテキスト入力式ゲームが実現可能になる土壌が整ったように見受けられます。実際、アドベンチャーゲームに自然言語処理を応用しようという取り組みが行われています。

テキスト入力式アドベンチャーゲーム(スクウェア・エニックス)

スクエニが研究している次世代アドベンチャーゲーム「NLPアドベンチャー」とは何か 人工知能を使った原点かつ最先端の新感覚ADV

こちらCEDEC2022九州でスクウェア・エニックスが発表した内容では、次世代テキスト入力式アドベンチャーが提唱されています。
ユーザーが入力したテキストが、シナリオ進行に関係あると認識された場合、規定パターンの台詞が返ってシナリオが進行しますが、それ意外の場合は雑談モデルが返答を返してシナリオは進行しないという設計になっているそうです。

素材が全てAIによって作成されるアドベンチャーゲーム(EndlessVN)

EndlessVNはフィンランドの会社が開発したウェブサービス型アドベンチャーゲームです。

下記の引用にあるように、背景や音楽、物語そしてキャラクターが全てAIで生成され、毎回異なる体験ができるというのがEndlessVNの売りです。

Endless Visual Novel is an AI storytelling game where all assets — graphics, music, story and characters — are generated by AI as you play.
No two playthroughs will ever be the same.Play Now

前述したスクウェア・エニックスの事例は飽くまでメインプロットはライターが書いたものがすでに決まっていて、それに沿ったストーリーになるかどうかがユーザーのテキスト入力によって決まるというものでした。EndlessVNは全てがAIで生成されるため、プロットも決まっていません。基本的には選択肢が提示され、それを選んで行動しますが、そうではなく、自由にテキスト入力することもできます。

ただし、このようにAI任せにしてしまった場合はユーザーに一定以上の品質のエンターテインメントを提供する保証できないというリスクがあります。

言語モデルを利用した創作支援ツール/テキストアドベンチャーゲーム

ゲームではないですが、AIが物語の続きを書いてくれたりプロットを考えてくれるサービスは現在多く提供されており、AI dungeon、NovelAI、BunCho、AIのべりすと、ChatGPTなどがあります。これらは、ユーザーがテキストを入力してインタラクティブに物語を進めるという点ではコロッサルケーブアドベンチャーなどの、問題の多かった古典的テキストアドベンチャーゲームを高い技術によって実現可能な形に昇華させたものという捉え方もできます。

今後の展望

これまでのゲームというのは、ゲーム内で起こるパターンが予め決まっており、ルールによって勝敗が決まるという形式でした。しかし、これはある意味これまでのプログラミングの限界がゲームをそういった形式に限定させていたという側面もあると思います。機械学習が出力するパターンというのは無限に存在し、ルールによって制御することが難しい事象に向いています。だからこそ既存のゲームの枠組みを超えるチャンスがあるように思えます。

しかし、自然言語は形式が自由すぎるために、既存のゲームシステムと組み合わせるには、ゲーム内のキャラクターや行動と対応させるための別の技術が必要となります。その辺りの研究も、活発化していますが、そのまとめはまた後日行いたいと思います。

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