上橋菜穂子さん講演会

東京国際ブックフェアで行われていた上橋菜穂子さんの講演会に行っていました。
上橋菜穂子さんは「精霊の守り人」「獣の奏者」を始めとする、ファンタジー小説作家で、
今年3月に「児童文学のノーベル賞」と呼ばれるアンデルセン賞を受賞された方です。
今回の講演は、上橋さんの著作の翻訳者である平野キャシーさんも登壇されていました。

お話のメインテーマはずばり、「文化の違い」であったと思います。
40分程度、お話を聞いただけでも、上橋さんの考えの深さが伝わり、これだけ深い考えを持っているからこそあれだけの話が書けるのだなと思いました。

上橋さんは、現代であっても、欧米では植民地主義的な考えが根付いていると言います。
たとえば、ファンタジー作品に出てくる主人公は、大抵ヨーロッパ的な文化を背景に持った白人(アングロサクソン系)です。
ファンタジーという異世界を描くのであれば、白人ばかりではなく、色んな民族を主人公にして物語を作るべきだと上橋さんは言います。
アメリカの児童で白人系なのは全体の5割程度しかいないそうです。
それ以外の子どもたちが感情移入出来るよう、白人でない人物が主人公のファンタジーをもっと沢山つくるべきと仰っていました。
例として挙げられていたのが「ラッグズ!ぼくらはいつもいっしょだ」という小説です。
これは、アボリジニの人物が主人公の物語のようです。
古い本で絶版になっているようですが、amazonなどでは中古で売ってますね。
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イギリスでは、「英文学に優れた文学が沢山あるのだから、翻訳小説を読む必要などない。」という考えがまだある、とキャシーさんは仰っていました。
翻訳だけでは食べていけないので副業として翻訳を行っている人が多いようです。
英文学ではない、他の国の物語にも優れたものが沢山あるのだともっともっと伝えていきたい、と上橋さんは意気込んでいました。
上橋さんがギリシャのサントリーニ島にいたときのこと。
ある漁村で自分を案内してくれた黒人の人は、日本語について非常に興味を持っており、頻繁に日本語について質問してきたそうです。
理由を聞くと、日本の漫画である「ナルト」が好きで、日本のコンテンツをもっと知りたいから日本語を勉強したいのだとのこと。
このように、日本のコンテンツを鑑賞するために、日本語を学んでくれる人が増えているのは喜ばしいことだと仰っていました。

もう一つの話題としては「海外で出版することの難しさ」です。
海外で「精霊の守り人」を売りだそうとするときに、主人公の年齢が30代であったことにまず、まゆをひそめられるのだとか。海外では、ヤングアダルト向けの小説の主人公はヤングアダルトであるのは当たり前だし、児童文学の主人公は児童であるのが定石のようです。
そこへいくと、バルサは30代。出版社の人に、「30代である必然性」について上手く納得させるのにキャシーさんは骨を折ったそうです。
結局、日本語では序盤で明かされているバルサの年齢は中盤まで明かされず、明かすにしてもさりげなく目立たなく記載するという方法が取られたそうです。
海外の出版社の人たちは紋切りや形式にはまったものの考え方をするようで。
また、海外で児童文学を出版する際にはバイオレンスな描写についても厳しい検閲がかかります。
獣の奏者では、ソヨンが闘蛇に食べられるシーンがあるため、上橋さんは心配されているようです。
それに対してキャシーさんは「上橋さんの作品では暴力が解決手段としては描かれていない。暴力では何も解決しないということを訴えている。だから大丈夫だと思う。」と仰っていました。
確かに、上橋さんの作品では暴力を争いの解決手段にはしていない。
ここは自分が気づいていなかったことなので目からうろこでした。

上記に載せたことは、講演の内の一部の話題ですが、これだけでも上橋さんが深い考えを持って物語の作成にあたっていることが分かると思います。
9月には新作である「鹿の王」が出版されるそうなので、首を長くして待ってます!

以下

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